2) ロハスが,どうした?
 最近,ロハス(LOHAS)なる奇妙な言葉を知った。
 もともとは,「ソトコト」という妙な名の雑誌が作り出した言葉で,Lifestyles Of Health And Sustainability の略だそうだから,健康と環境保護とをミックスしたライフスタイルとでも言うのだろうか。
 「エコ」とか「環境にやさしい」などと同様,雰囲気だけで,実は何を表しているのかよくわからない,実体のない言葉である。
 しかも,ファッション感覚を盛り込んで,女性に受けるように仕立てているところが,実にいかがわしい。  
 案の定,最初は環境とか健康とかに関連する商品を売り込むための,ブランドネームのようなものだったらしい。やはり,動機が不純だったか。
 ビジネスとしての流行は終わっているらしいが,関連本はまだ売れているし,インターネットでもロハス関連サイトは多い。殆どが女性向けのサイトだ。
 いわく「地球にやさしいことは,カラダにもやさしい!」と。
 いつも思うが,どうして女性はこういう言葉にコロッとなりすいのか?

 もっとも,男でも坂本龍一とか福岡伸一なんかがのめり込んでいるから,女性だけじゃないか。。。
 そういえば,のめり込みそうな男性のタイプがなんとなく解る。知的でオシャレめいた,女好きそうな雰囲気の男性。頭に浮かんだのは,中沢新一だ。

 試しに,中沢新一とロハスで検索をかけてみる。大当たり!
その名もLOHAS TALKなるサイトで坂本龍一と対談したというではないか!

 いや,こんな当て物をして喜んでいる場合ではない。。。

 ロハスなどという怪しげな言葉に,なぜ人々が惹かれてしまうのか。
 特に私が信じられないのは,分子生物学者の福岡氏だ。彼は2005年に「プリオン説はほんとうか?」(講談社ブルーバックス)というタイトルで,狂牛病とそのメカニズムに関する,詳細な説明本を出している。その本自体は,論文や研究をまじめに分析し科学的に解釈を加えている,まじめな本なのだが。
 福岡氏が書いた「ロハスの思考」(ソトコト新書。2006年)「プリオン説〜」とを読み比べると,とても同じ人が書いた本とは思われない。

 科学者がこんな子供だましの思想(というか,趣味)にのめりこむとは,一体何があったのだろうか?と,ちょいと興味が湧いた。

 そこで思い当たったのだが,彼は分子生物学者である。
 分子生物学者は,もしかすると,科学としての基礎的な思考方法がとれないのではないか?

 こう独断で考えるのには,根拠がある。私が昔とある研究所で,数人の分子生物学者を同僚に持っていたが,いま思い出すと,彼らもまた,理論立った物の考え方が苦手な人たちだった。
 だから議論をしていてもしょっちゅう論点がずれてきて,非常に話しづらかった。

 思うに,分子生物学自体に責任があるのではないだろうか。

 分子生物学,というか分子生物学の実験技術は,基礎科学や基礎生物学に基づいていない。そりゃ,DNAやらRNAやらを扱うことは生物学の基本の一部だが,実験技術の多くが,経験のみに基づいているのである。

 私は何度か,DNA抽出操作や,酵素による分解反応の内容について,「なぜこの試薬を使うのか」「なぜこのpHに設定するのか」など,基本的な質問を仕掛けたことがある。
 驚くなかれ,そのたびに叱りとばされた。いわく,「それが経験というものだ」と。それって,科学か?

 ふつう,実験に使う試薬やら温度やらは,科学的な根拠に基づいて使われるべきで,「使ってみたら偶然うまくいった」だけでは,論文として通らないはずなのだが,どうも分子生物学ではその手でまかり通ってしまうらしい。

 実験方法の参考にしようと幾つかの論文を読むと,論文ごとに意味不明な試薬がちょこちょこ出てくる。
 あまりにいい加減なので扱いに困り,結局私は,各論文に共通して使われている試薬だけを使って実験したら,ちゃんとうまくいった。 その他の試薬は一体,何のつもりで入っていたんだろう?

 優秀と言われる分子生物学者を見ていると,強記博覧型の秀才が多い。成功例の論文を非常に細かく暗記していて,その手順をどんどん取り入れてゆく者ほど,経験豊富な研究者という事になる。
 

 しかし困るのは,そういう科学者の肩書きを持った人が,こういう怪しい風潮(ロハス)を支持してしまうと,お墨付きが出たとばかりに,信用してしまう人が増えることだ。

 私の周りでは,まだそんな人がいなくて助かる。近所の公立書館にも,その手の本は置いていないから,私の居住区域はなかなか見識が高そうである。よかった。