1) バイキンがこわい
 小さい頃からバイキンがこわかった。家に「細菌 の國」という,古ーい本というより冊子があって,子供の頃何度も読んだ。内容と仮名遣いからすると,第2次大戦終了後まもないころできたと思われる。 まだ日本が,寄生虫とか狂犬病とか食中毒とか,身近な感染で命を落としかねなかった頃だ。

いまでも幾つか覚えている話がある。

 たとえば,豆腐屋に住み着いたネズミが,豆腐を入れる大きな水槽の上で暴れて,水の中に小水をもらし,翌朝水槽に手を入れた豆腐屋さんの指にあった小さな傷口からワイル氏病の病原菌スピロヘータが入り込んで,豆腐屋さんが発病してしまったという話。ネズミの尿に病原生物が入っていたのだ。

 それから,和菓子屋さんの家のネズミが夜中に運動会をして,和菓子屋の主人が仕込んでいたあんこに糞を落とす話。落とした糞の中の病原菌が一晩で増殖して,そのあんを入れた大福を食べた子供達が次々と食中毒にかかった話。

 その本に出てくるネズミはとにかく悪者だった。私は夜中に外に食べ物を出しておくとネズミに何をされるかわからないと思って,気をつけるようになった。 私が子供の頃はまだネズミは身近に沢山いて,殺鼠剤の赤い粒が家のあちこちに置かれていた。

 今でも,「復活の日」(古い。。)とか「アウトブレイク」とかいう,細菌の爆発増殖の話がこわい。

 最近この手の本が出て,こわいもの見たさでさっそく図書館で借りてしまった。
タイトルは「史上最悪のウイルス(上/下)」。文藝春秋から2007年1月にでた本で,著者のカール・タロウ・グリーンフェルド氏はタイムのアジア支局の記者だ。
 内容は,中国でSARS(重症急性呼吸器症候群)が始まった時の様子を,事実に基づきながら書いたノンフィクションである。
 一番怖いのは,この話が終わっていないことだ。近い将来また中国で感染症が発生するという恐怖。金の欲と食欲にどん欲で,それ以外の事は気にしないという,中国ならではの土壌から出る危機。もともと中国は好きな国ではないが,こんな話を読むと旅行さえおちおちできなくなる。